この記事では、アメリカで薬剤師として働く方法についてまとめています。
アメリカで働くにはどういった試験を受ける必要があるのか、日本の薬剤師と働き方の違いはあるのかなどについても解説しているので、ぜひチェックしてみてください。
目次
アメリカで薬剤師として働く方法
アメリカで薬剤師として働きたい場合、どのような方法があるのでしょうか。
日本で取得した薬剤師免許をそのまま使えるわけではありませんが、アメリカで薬剤師免許を取得する方法は大きくわけて2つあります。
ここから、アメリカで薬剤師として働く方法を具体的に紹介していきます。
①Pharm.Dを卒業する
まず「Pharm.D」とも呼ばれる、薬学系の大学院を卒業するという方法があります。
4年制大学に入学して、卒業する
アメリカの薬剤師になる方法としてまずご紹介するのが、4年制大学卒業後にPharm.Dというアメリカの薬学部に入学し卒業することです。
Pharm.Dは日本の大学院の博士課程に相当し、高校卒業後直接入学することはできません。
入学前に約3年かけてPrerequisiteとよばれる必須科目を修了する必要があります。
この必須科目の修了のため、多くのアメリカ人は4年制大学を卒業してからPharm.Dに入学します。
Pharm.Dの多くは4年制で、数か月間の夏休みが含まれていますが、夏休みをなくした短縮3年制のところもあります。
まとめると、アメリカでは高校卒業後に薬剤師になるまで、平均約8年かかるということです。
コミュニティカレッジに入学して、卒業する
Pharm.D入学前の必須科目を修了する方法としてもう1つ、コミュニティカレッジに入学し、卒業するという方法があります。
アメリカのコミュニティカレッジとは、公立の2年制大学のことで、4年制大学に比べて学費が安くすむというメリットがあります。
学費を抑えるため、コミュニティカレッジで2年間教養課程を学んだ後、4年制大学に編入してより専門的な内容を学ぶという人も多いです。
学費が安いことに加え、外国人留学生に対するサポートも充実しているところが多く、日本からの留学生も多いです。
また4年制大学に比べ、入学時に求められる英語力=TOEFUL iBTのスコアも低く設定されています。
そのため、英語力に自信がない場合は、コミュニティカレッジに通いながら英語力をつけるのも1つの方法です。
②FPGEEの認定証を得て、インターンを終了する
日本人がアメリカの薬剤師として働く方法には、外国人薬剤師向けの試験=FPGEEに合格・認定証を取得し、インターンシップを修了する方法もあります。
日本で受けた薬学教育を証明し、FPGEEに合格、英語力を評価するTOEFUL iBTで基準を達成すると、FPGECという認定証がもらえます。
FPGEC認定証を得た上で求められる要件は、州によって違いがありますが、通常は病院や薬局でのインターンシップが必要です。
また、州によって異なりますが、インターンシップは1000~1500時間の実施を課されます。インターンの仕事内容は、薬局を開閉する鍵を持たない点以外は薬剤師とほぼ同じですが、薬剤師の監督下においてのみ業務を行えます。
③日系企業に入って、海外勤務を行う
アメリカで薬剤師免許を取り直さずに現地で薬剤師として働く方法として、日系製薬企業で海外勤務を行う方法があります。
医薬品の販売を海外で行う場合、マーケティング調査や薬事申請など現地で行う必要のある業務が発生します。
薬局や病院の薬剤師としての勤務とは大きく異なる仕事内容ですが、医療先進国であるアメリカでは最新の医療に触れられる機会があります。
新薬の最新知識を得られたり、最新の医療現場・研究内容を知ることができるのです。
ここで注意したいのは、外資系製薬企業は本社が日本以外の国にあるため、日本人を海外派遣するということはほとんどありません。
日本の製薬企業であれば、海外支店に日本人を派遣することがあり、海外勤務ができる可能性があります。
アメリカと日本の薬剤師事情の違い
アメリカと日本では薬剤師教育や医療制度が異なっており、そのことが薬剤師事情の違いにも反映されています。
ここでは、アメリカ・日本の薬剤師の仕事内容や役割、労働環境や年収の違いはどうなのかについてまとめていきます。
仕事内容や役割
まずは日本とアメリカ薬剤師の仕事内容の違いや役割の違いについて解説します。
日本の薬剤師の業種・仕事内容
日本の薬剤師は、薬局・病院・ドラッグストア・企業・行政が主な職場です。
日本の薬剤師の仕事内容について、業種別に紹介していきます。
①薬局薬剤師
医療機関が発行する処方せんをもとに、薬の調剤業務・服薬指導・薬歴管理業務を行うのが主な仕事です。
在宅で医療をうける患者さんを訪問し、服薬指導を行うこともあります。
②病院薬剤師
主な仕事内容は、薬の調剤業務・注射薬や点滴の調整・服薬指導や薬物治療モニタリングです。
医師・看護師をはじめとする他職種の人と共に、チーム医療の一員となって働きます。
③ドラッグストア薬剤師
OTC販売だけでなく、健康食品やサプリメントの販売や健康相談にも対応します。
調剤併設のドラッグストアの場合は、薬局薬剤師と同じ仕事もします。
④企業薬剤師
薬の研究開発・治験の他、医療機関からの問い合わせに対応したり、管理薬剤師として医薬品の品質・在庫管理などを行います。
⑤公務員薬剤師
国や都道府県・保健所といった場で行政に従事する公務員の薬剤師です。
薬事監視として指導・取り締まりをしたり、衛生研究所の研究員や麻薬取締官や自衛隊薬剤師として働く人もいます。
アメリカの薬剤師の業種・仕事内容
アメリカの薬剤師の仕事内容は日本の薬剤師と異なる点が多く、業種は大きく4つに分けられます。
また、アメリカの薬剤師には、基本的な業種以外に「テクニシャン」という専門職があります。
テクニシャンは、薬剤師が患者さんに処方薬を出すのを補佐する仕事で、薬剤師の監視下で調剤を行うことが可能です。
そのため薬剤師は、調剤以外の「処方鑑査」や「患者さんとの対話・患者さんのケア」など専門性の高い仕事を中心に行います。
ここからは、アメリカの薬剤師の4つの業種について書いていきます。
①薬局薬剤師
ドラッグストアや薬局などに勤務し、患者さんに医薬品を提供します。
日本の薬剤師と大きく違う点は、アメリカが導入しているリフィル処方箋制度にあります。
リフィル処方箋制度は、1つの処方箋で複数回薬を受け取ることができる制度です。
薬剤師は患者さんの服薬中の症状変化や副作用の有無をフォローし、必要に応じて医師への受診を勧める役割があります。
また、アメリカの薬剤師はインフルエンザの予防接種も実施します。
②臨床薬剤師
病院や介護施設などで働き、調剤業務を行ったり、医師や他の職種の人と共に患者さんの直接ケアに携わります。
医療現場において、患者さんに投与する薬の量や服用のタイミングを計画・提案することで、薬物治療をリードする存在でもあります。
日本の薬剤師と異なるのは、医師に対しても積極的に意見を伝える点です。
また、健康診断の実施や患者さんへのアドバイスを薬剤師が行うところも、日本と異なっています。
③コンサルタント薬剤師
薬物治療や薬局のサービス向上などについて、医療施設等にアドバイスをします。
日本の薬剤師の仕事としてはあまり知られていませんが、アメリカでは高齢の患者さんに処方箋管理の助言をすることもあるようです。
④製薬業界の薬剤師
製薬企業において、マーケティング、営業、開発などの領域で働く薬剤師です。
新薬の開発に携わり、治験の設計・実施を担当することもあります。
日本の企業が世界に先駆けて新薬を開発するのはまだまだ難しいですが、アメリカの製薬企業では最先端の創薬研究に関わることができます。
労働環境
次に、労働環境の違いについて解説します。
日本
ここでは、日本の薬剤師の多くが働いている調剤薬局、ドラッグストアにおける労働時間や環境について書いていきます。
まず調剤薬局の営業時間は、近くにある病院やクリニックの営業時間に準拠しているところがほとんどです。
調剤薬局では固定勤務制が一般的で、休日は門前の医療機関に準拠した平日+日曜日といったところが多いでしょう。
残業時間は月10時間程度と少なめの薬局が多いですが、門前薬局においては、最終患者の投薬が終わるまで帰宅できないこともあります。
ドラッグストアは、年中無休・24時間営業のところも増えており、薬剤師の勤務は完全シフト制になっているところがほとんどです。
残業時間は平均30時間と多めで、拘束時間も長くなる傾向があるようです。
調剤以外にも、品出しやレジなどの業務をこなさなければならず、仕事は多岐に渡りますが、人員はあまり多く配置されていません。
そのため、患者さん・お客さんが増えてくると、なかなか定時で上がれないことがあるようです。
アメリカ
ここから、アメリカの薬剤師の多くが勤務している薬局やドラッグストアなどの小売業における労働時間や環境について書いていきます。
アメリカの薬局やドラッグストアは24時間営業の店舗が多く、夜勤や週末の勤務を中心にするアルバイトの薬剤師もいます。
そのため、アメリカの薬剤師の多くは常勤ですが、20%の薬剤師はパート・アルバイトとして勤務しています。
勤務は1日8~12時間と長時間になることが多く、ほとんどが立ち仕事です。
平日休みは取りやすいですが、土日や祝日の休みはとりづらい傾向にあるようです。
正社員でも時給で勤務するところが多いですが、最近は年俸制のところも増えています。
その場合、週40時間勤務として時給から計算され、それ以上残業しても給与には反映されません。
また、アメリカではテクニシャンが薬剤師の仕事を補助するため、薬剤師は服薬指導や健康相談に専念できる環境で働いています。
年収
最後に、年収の違いについて解説します。
日本
日本の薬剤師全体の年収は平均約500~600万円ですが、職種によって差があります。
調剤薬局・病院勤務の薬剤師の平均年収は450~470万円、ドラッグストア勤務の薬剤師の年収は600万円以上となっています。
製薬企業勤務の薬剤師は、500~1000万円と幅があります。
診療報酬の改定は、医療費削減のため今後も水準を下げる方向になることが予想されています。
そのため、今後日本の薬剤師の平均年収が大幅に上がるということは考えにくいです。
アメリカ
アメリカにおいて薬剤師は、薬物治療・予防医療のスペシャリストとして需要が高く信頼も厚いため、年収は日本の薬剤師よりかなり高額です。
アメリカの薬剤師の年収は、新卒の段階から1000万円を超える場合があり、平均年収はおよそ1200万円にもなります。
国民皆保険制度の日本とは異なり、アメリカでは公的な医療保険に加入できる人は一部であり、民間の医療保険はかなり高額になっています。
手厚い医療を受けることが難しい人にとって、まず相談するのは医師ではなく薬局やドラッグストアにいる薬剤師です。
そのため、アメリカの薬剤師は社会的地位が非常に高いです。
また、アメリカの薬剤師教育は非常に充実していて、医療現場において薬物治療をリードするスペシャリストを育てるものです。
こういった点が反映され、高額な年収になっていると考えられます。
アメリカで薬剤師として働くためにするべき準備
アメリカで薬剤師として働くためには、英語力とアメリカの医療現場で対応できるスキルが求められます。
アメリカで働く準備をするにあたり、英語の勉強方法や薬剤師としてどのようにスキルアップしておけばよいかについて書いていきます。
英語の勉強
アメリカで薬剤師免許を取得するために、TOEFUL iBTのスコアが基準点以上なければなりません。
TOEFL iBTは、アカデミックテストとして、コミュニケーションに必要な「読む」「聞く」「話す」「書く」の4技能を総合的に測るテストです。
TOEFL iBTの「話す」の項目は、特に基準点以上を獲得するのは難しいようなので、英語で話す勉強が重要になってきます。
日本の薬局においても、空港や大使館近くなど、外国人が多く利用する薬局があり、英語での接客や服薬指導が求められるところがあります。
そういった店舗に勤務することで、日常会話から薬学の専門用語まで、英語を学ぶのも1つの方法です。
また、日本医学英語検定という検定試験もあり、基礎級(4級)は英語初心者にも取り組みやすい内容になっています。
薬剤師としてのスキルアップ
アメリカの薬剤師は、リフィル処方箋制度における患者さんのケアや、医師を含むチーム医療の中で薬物治療をリードするスキルなどが求められます。
いずれも、薬剤師によるバイタルチェックに代表される薬学的判断能力や患者さんとのコミュニケーション能力が問われます。
検査数値から薬物治療の効果をモニタリングしたり、患者さんから症状変化や副作用発現の有無を聞きだすスキルを磨いておいたほうが良いでしょう。
また、アメリカの薬剤師は薬の処方内容について、医師に積極的に意見することが求められます。
アメリカの薬剤師は医師や看護師など他の医療職の人からの信頼も厚く、その期待に応えなければなりません。
そのためには、薬や病気に関する専門的な知識を習得し、日々進歩する医療現場で勉強する習慣をつけておく必要があります。
アメリカで薬剤師として働く上で活用したい転職サイト
いざアメリカで働きたいと思っても、何から始めれば良いのか、分からないですよね。
まずは転職サイトに登録して、相談してみましょう。
ここでは、信頼できる転職サイトをいくつかご紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
薬キャリエージェント
エムスリーという、医療情報専門サイトを運営している転職サイトで、医療業界に強いコネクションがあります。
そのため、病院や製薬会社など、一般的には求人数が少なくて人気のある求人もそろっていると、評判です。
製薬会社の薬剤師は、部署によっては海外の人と英語でやりとりする機会があるため、英語が得意で活かしたい人にも人気です。
独自の薬剤師求人の他にも、同業他社(他の転職エージェント)の薬剤師求人の紹介もできるのが強みです。
コンサルタントによる電話やメールでの対応が早く、フォローが手厚いため、初めて転職をする人にも向いています。
ファルマスタッフ
大手調剤薬局チェーンの日本調剤グループが運営してきたファルマスタッフは、調剤薬局とのつながりが強いことで業界でもよく知られている転職サイトです。
英語で服薬指導をする必要のある調剤薬局は、英語が得意な人を優先して採用するケースがあります。
調剤薬局の求人が豊富な転職サイトであれば、そのような英語を活かせる薬局の求人も見つかる可能性があります。
公開求人数は5万5千件以上で、47都道府県に対応しています。
サイト登録後は、個別面談をしてから求人紹介となります。
面接サポートもしてもらえるので、初めて転職をする人にもおすすめです。
大手や地方密着型でチェーン展開している調剤薬局だけでなく、個人レベルの店舗の求人も紹介してもらえます。
リクナビ薬剤師
リクルートという、人材紹介等を行っている大手の会社が運営する転職サイトです。
大手の調剤薬局チェーンやドラッグストア、有名企業の求人を中心に紹介してくれます。
公開求人数は3万5千件以上です。
リクナビ薬剤師は、非公開求人数が多いというのも評判です。
非公開求人には、人気のある数少ない求人も含まれています。
製薬企業での海外勤務で英語を活かしたい人も多く、製薬企業の求人は人気があるので、非公開になっていることも多いです。
また、コンサルタントとは、基本的に電話やメールでのやりとりなので、忙しい薬剤師も相談しやすいです。
電話やメールのレスポンスも早く、紹介してもらえる求人数も多いので、早く転職したい人にも向いています。
マイナビ薬剤師
マイナビ薬剤師は、マイナビという人材紹介等を行っている大手の会社が運営する転職サイトです。
公開求人数は5万5千件以上です。
マイナビは、転職者との面談に力を入れており、サポート体制が充実していると評判です。
丁寧にサポートしてもらえるので、特に転職が初めての人におすすめです。
求人は、ドラッグストアや製薬企業の紹介数が特に豊富です。
製薬企業での海外勤務で英語を活かしたい人も多く、製薬企業の求人は人気です。
また、マイナビ薬剤師はブランクがある薬剤師の復職支援相談会や、転職セミナーなども実施しています。
出産・子育てを経て長期間ブランクがあって復職したい場合や、未経験の業界への転職の場合は、こういったコンテンツを活用するのもよいです。
まとめ
日本とアメリカでは、医療制度の大きな違いがあるため、薬剤師の立ち位置や社会的地位も大きく異なります。
そのため、日本の薬剤師免許をそのままアメリカで使えませんし、アメリカで薬剤師免許をとることは簡単なことではありません。
しかし、アメリカの薬剤師がもつ専門性の高い知識やスキルは見習うべきであり、現に日本も薬剤師教育が6年制になりました。
アメリカの薬剤師が、独立した薬のスペシャリストとして機能している姿は、将来的に日本の薬剤師にも求められる姿だと言えます。